どんな事業なら参入しやすい?介護業界の開業事情

介護で開業を考える場合、どんな事業から始めればいいのでしょうか。開業しやすいサービスや開業手順、リスクを解説します。

目次

  1. 【1】まずはここから。介護事業を開業する手順

  2. 【2】開業資金はどのぐらいかかる?

  3. 【3】デイも訪問も一長一短。開業するサービスは慎重に検討しよう

国民の4人に1人が高齢者といわれる日本。高齢化は今後ますます進み、2035年には「3人に1人が高齢者」という時代が到来するという推計も出されています。「ニーズが高まるのだから、今こそ開業のチャンスなのでは?」と、脱サラして介護業界での開業に乗り出そうと考えている方も多いのではないでしょうか。介護業界で開業をする場合、どんな事業からスタートするべきか、どのぐらいのコストがかかるのか、シミュレーションしてみましょう!

まずはここから。介護事業を開業する手順

老人ホームや訪問介護、デイサービス…。介護業界といっても、その施設形態やサービス内容はさまざま。介護職員としての資格や勤務経験を持ち、サービス内容を熟知していればスムーズですが、現場でノウハウを学んでいなくても、介護業界での開業は可能です。特にデイサービス、訪問介護は、介護職員さえ確保できさえすれば参入しやすいビジネスとして高い人気を集めています。

では、実際に開業するとしたらどんな準備が必要なのでしょうか。

法人格を取得する

介護事業所をはじめるにあたり、まず必要となるのが介護事業所の指定を受けること。介護事業所の指定を受けるには、個人でなく法人でなくてはなりません。まずは株式会社や合同会社、NPO法人…といった法人格を取得することからスタートしましょう。では、いったいどんな法人格を取得すべきでしょうか。法人格によって異なるメリット・デメリットは次のとおりです。

認知度の高さと設立しやすさが魅力の「株式会社」

株式会社として法人格を取得するメリットは、やはり認知度が高いところ。資本金は1円から設立ができますし、配置しなければならない取締役も1名いれば設立が可能です。設立には3週間~1ヶ月程度を要し、さらに設立にあたって登録免許税や定款認証費用がかかるというデメリットがあります。認知度の高さから周知しやすい一方で、設立にコストがかかるというのが株式会社の特徴です。

スピーディーに設立できる「合同会社」

合同会社として法人格を取得するメリットは、なんといっても設立までにかかるスピードが早いところ。株式会社で必要だった定款認証が不要で、登録免許税も株式会社の設立と比べるとぐっとコストが抑えられる点が魅力です。ただし、合同会社と聞いてもあまりピンと来ない方が多く、認知度の面では劣ります。とはいえ、デイサービスや訪問介護サービスを展開する場合、広告などで大きく表示するのは法人名ではなく屋号(施設名)ですので、認知度に左右されるケースはそう多くありません。

税金も資本金もかからない「NPO法人」

非営利団体であるNPO法人として法人格を取得する場合、資本金がかからず納税する税金が0円で済むという点は魅力です。さらに公益性の高い事業者として、介護事業との相性も抜群にいい法人格といえるでしょう。ただし設立にあたり、理事3名、監事1名以上の人員が必要で、都道府県知事の認可を得て設立登記までの期間に5ヵ月前後の期間が必要となってしまうなど、設立の審査が厳しいという特徴があります。

公共性が高い分設置も厳しい「社会福祉法人」

特別養護老人ホームの運営法人に圧倒的に多い社会福祉法人。公共性が高く信頼が厚い法人格ではありますが、6名以上の理事と2名以上の監事を設置しなければならないほか、社会福祉事業を行うために必要な資産を備えていなければ設置認可を受けることができません。設立が難しい法人格ではありますが、補助金の交付や税制面の優遇措置を受けることができるなど、メリットも多いのが特徴です。

開業準備をする

法人格を取得に向けて動くのと同時に、開業場所の検討や施設開設へ向けて準備を行います。

開業場所を決定する

法人格取得へ動きはじめたら、開業場所の検討をスタートします。

競合となる事業者が少なく、高齢者のニーズが高く、それでいて従業員の通勤に便利な立地を選べればベストのように感じるかもしれませんが、開業できる場所には一定の要件があります。たとえばデイサービスの場合、消防法や建築基準法、都道府県ごとに設定された条例や介護保険法など、あらゆる要件を満たしている必要があります。訪問介護事業所の場合、利用者の方のもとを訪ねるというサービスの特性上、デイサービスよりも要件に縛られずに開業することができます。

施設の準備をする

開業場所を決定したら、利用者が安心して施設を利用できるよう準備を行います。

こちらも訪問介護事業所の場合、利用者が事業所を訪れる機会は多くありませんので、「事務スペース(事務室)」と「相談スペース(相談室)」を設けておけば設置可能です。詳しい要件は自治体によって異なりますが、生活スペースときちんと区切られてさえいれば自宅での開業も可能です。

一方で、デイサービスの場合、施設に細かな要件があります。たとえば車いすのスロープの斜度やお風呂の湯船の高さ、トイレやお風呂の入り口の幅など、都道府県の条例などで細かに定められています。適合していないと開業することができませんので、関係各所と連携して慎重に進めていく必要があります。

人員を確保する

施設の開設準備と並行して行っておきたいのが人材集めです。訪問介護事業所の場合、管理者のほか、サービス提供責任者と訪問介護員を配置すれば開業することができます。

デイサービスの場合、管理者と介護職員のほか、生活相談員、看護職員、理学療法士や作業療法士などの機能訓練指導員の配置が必要です。人員確保の面でも、訪問介護サービスのほうが開業のハードルは低めです。

各都道府県に申請を行う

自治体によって流れは異なりますが、介護事業者指定申請を行う場合、自治体と協議を繰り返しながら開設までの準備を行うのが一般的です。自治体のアドバイスを受けながら開業場所を決定し、申請に必要な書類を作成、指定申請を行い、審査を受けます。申請から設置認可までにかかる期間も自治体によってさまざまですので、所轄の担当部署と連携しながら進めていく必要があります。

開業資金はどのぐらいかかる?

デイサービスとして開業する場合、施設にスロープを設置したり、入浴設備を整えたり…といった準備が必要となりますので、莫大な初期投資が必要となることが少なくありません。一方で、訪問介護であれば施設を整える必要はほとんどなく、その開業資金は数百万円程度が相場です。

介護の“売り上げ”は遅れて入るので注意

介護サービスの場合、飲食店や小売店とは違い、介護で得た売り上げは即日手にすることができません。介護の売り上げ=介護報酬となりますが、入金は二ヶ月遅れです。そのあいだも当然、家賃や人件費などはかかってきますから、開業資金をもっておかないとあっという間に破たんしてしまうこととなるため、事業のはじめはとても厳しいのが介護で開業する最初のハードルといえるかもしれません。

デイも訪問も一長一短。開業するサービスは慎重に検討しよう

開業しやすい事例として訪問介護サービスとデイサービスを比較しながら開業方法をご紹介しましたが、いかがでしたか。ハード面(施設や設備)の整えやすさや、ソフト面(人員)の整えやすさで考えると、やはり訪問介護サービスのほうが開業しやすいのですが、訪問介護サービスの場合、サービスの特性上、どうしても施設ごとの個性を出しにくく、他との差別化が図りにくいというデメリットがあります。訪問介護には定員がないため、場合によってはデイサービスよりも多くの利用者を獲得できる可能性もありますが、それはコンスタントに利用者を獲得できれば…の話。利用者を確保できず、立ちいかなくなってしまう事業者も実際には少なくありません。

また、ケアマネジャーとして働いている方が独立して居宅介護支援事業所を開業するケースも見られるものの、ひとりで対応できる人数には限りがあるうえ、一定の人数を超えると介護報酬の基本単位部分が下がってしまうため、なかなか厳しいのが現実。従業員を増やせば人件費がかかるため、訪問介護事業など、ほかのサービスを併設するのが一般的です。

成長が見込める市場といわれる介護市場ですが、介護で開業をする場合は「要件を満たしたサービス」を用意するだけでなく、サービス提供エリアの高齢者の傾向や地域性なども考慮しつつ、慎重に進めるようにしたいですね。