ヘリコプターマネーとは?
最近、日銀が国債を買い入れで国政資金を供給することで有名になった「ヘリコプターマネー」。
ヘリコプターマネーとは中央銀行に国債を引き受けてもらうことによって、景気の回復を図るというもの。経済用語で「マネタリーファイナンス(財政ファイナンス)」、日本語で「債務の貨幣化」とも言われています。
ミルトン・フリードマンの論文が発表された1969年当時は、ドル危機が激化して、世界的にインフレーションが起こっていた時期。インフレーションが貨幣的現象であり、中央銀行が行う貨幣政策がインフレーションを抑制するための手段であるという認識を持っていたミルトン・フリードマンは、貨幣量と物価水準の関係を説明する方法として、ヘリコプターからドル紙幣をばらまくという例えを用いました。
貨幣は、民間の金融機関から国債等の資産を買い入れる対価として、中央銀行から供給されますが、貨幣供給を増やしても、デフレーション等の原因によって金融機関の融資が増えない場合、市場に出回る貨幣量は増加しません。これに対して、市場に出回る貨幣を確実に増やす手段として考案されたのがヘリコプターマネーです。
この考えは、2000年代になってから、米連邦準備制度理事会(FRB)の理事であったベン・バーナンキやアメリカコロンビア大学教授であったジョセフ・スティグリッツがデフレーションを食い止めるための手段として提案した金融政策によって注目を集めました。
ベン・バーナンキ氏が提案した金融政策は、中央銀行が公開市場において、民間が保有する国債を買い取ると同時に、政府が広汎な減税を実施するというもの。この政策がヘリコプターマネーと本質的に同じであるとしています。
国債は政府の債務ですが、同時に中央銀行の資産となるもの。そのため、中央銀行のベースマネーを財源とした減税として両者は相殺される関係となっています。
また、ジョセフ・スティグリッツ氏は、日本に来日した際に、政府が紙幣を発行することを推奨しました。
バブル崩壊後の日本において注目を集めたヘリコプターマネーは、2008年に起きたリーマンショック以降、景気が停滞する先進国において、注目を集めています。
ヘリコプターマネーがなぜ今注目されているのか
ヘリコプターマネーの語源は、ヘリコプターからお金をばらまくことにありますが、実際は、日銀が発行した貨幣を政府の政策に使用するという金融政策を表しています。
日本の貨幣は、管理貨幣制度に基づき、中央銀行である日本銀行が、貨幣価値を調整しながら発行しています。
今、ヘリコプターマネーが注目されている理由として、日本銀行の金融緩和がうまく作用していないことがあげられます。
日本銀行は、現在、2%の物価上昇を目標に掲げて、金融緩和政策を行っていますが、効果が現れていません。
そもそも、2%の物価上昇という目標を達成するために日銀がどのような政策を行っているかについて、簡単にご紹介します。
現在、日本銀行が実施している金融政策とは?
国民は、所有する貨幣を銀行に預け、銀行は、預かったお金に対して利子をつけるために、預かったお金を運用しています。
その運用方法の一部が国債の購入。国債は、国がつぶれた時に回収できないというリスクがあるものの、元本割れすることが無いため、銀行は国債の購入を繰り返し行い、多くの国債を保有しています。
日銀が行っている金融政策は、民間銀行から国債を購入することによって、民間銀行が所有する現金を増やすというもの。銀行が所有するお金を企業に貸し付けることで、世の中に流通するお金の量を増やすということが目的です。
しかし、実情はと言うと、流通するお金の量を増やす目的で日銀が民間銀行が保有する国債を買い取っても、民間銀行はその代金を日本銀行内に持つ当座預金口座に預金をするため、お金の流通量は増えていません。
日銀の当座預金口座にあるお金と、世の中に流通しているお金の合計額を『マネタリーベース』と言いますが、マネタリーベースが400兆を超えていても、流通貨幣は100兆円程度。
日銀は、マネタリーベースを年間で約80兆円増やすペースで、国債を中心とした金融資産の買い入れをしていますが、このことが物価指数を2%上昇させるために日銀が行っている量的緩和政策です。
ヘリコプターマネーを実施する可能性が浮上
日銀によって、年間80兆円の日本国債の買い取りが続いていますが、マネタリーベースを増やして物価指数の2%上昇を達成するという金融政策が効果を得られていないのが現状です。
そこで浮上したのが、ヘリコプターマネーの実施。
現在日銀が行っている金融緩和政策は、預貯金によって国債の購入が進めるものであり、市場原理に基づいています。そのため、貨幣価値を下げることにはつながっていません。
一方、ヘリコプターマネーは、預貯金に関係なく、日本銀行が政府から直接国債を引き受けるというもの。日銀は、無制限に政府の国債を買い取ることができ、そして、国債の返済期限が設けられていないため、政府が自由に使うことができるお金を増やすことができます。
ヘリコプターマネーの実施には賛成・反対の両意見が存在
ヘリコプターマネーは、過去にアメリカ・ドイツ・日本において実施された歴史があります。
アメリカでは南北戦争時代に、北部と南部が政府の紙幣を発行しましたが、高いインフレを引き起こしました。また、ドイツでは第一次世界大戦後に巨額の財政赤字を埋め合わせるために貨幣を発行しましたが、ハイパーインフレを引き起こす原因となっています。
日本においては、1930年代に実施されましたが、この際、高橋是清蔵相が日銀の国債の直接引き受けを行いました。第二次世界大戦敗戦後にハイパーインフレになりましたが、財政拡張政策と、円の切り下げ政策を合わせて行い、世界に先駆けてデフレーションからの脱却を実現することができたと評価されています。
政府が、好きなものを購入したり、食べたりする費用に充てることができる現金や商品券等が配るヘリコプターマネーを実施した場合、消費活動を促し、景気の回復につなげられる可能性があります。
しかし、その一方で、ヘリコプターマネーを実施することによって、中央銀行のバランスシートは、債務だけが増えます。
債務に見合う資産は計上されないため、債務超過に陥ることも。その結果、中央銀行や貨幣に対する信認が損なわれ、ハイパーインフレを引き起こしてしまう危険性も含んでいます。