なぜ高齢者にはたくさんの薬が処方されるのか?

介護においての高齢者の薬問題
1人の高齢者が10数種類の薬を服用していることもあるが、その処方が必ずしも正解とは限らない。今の医療システムの問題から、なぜ高齢者がここまで多くの薬を服用しているのか探る。

目次

  1. 【1】大量処方は医師が儲かるため!?

  2. 【2】医療の専門分化主義とは!?

  3. 【3】専門外の患者を診る時のマニュアル本がある!?

  4. 【4】医療の正常値至上主義とは!?

  5. 【5】今、必要とされているのはどういう医師?

介護士として高齢者の服薬介助を行ったことがある方は、高齢者が飲む服薬数の多さに驚かれたかもしれません。1人の高齢者が10数種類の薬を服用していることは珍しいことではないですが、かといって、その処方が必ずしも正解とは限りません。今の医療システムの問題から、なぜ高齢者がここまで多くの薬を服用しているのか探ってみたいと思います。

大量処方は医師が儲かるため!?

高齢者が大量の薬を服用していることは耳にしたことがあるかもしれません。日本では海外に比べて、病院での薬の処方が多いという事実があります。この問題に関して、原因は医師の金儲けにあるのではないかという憶測が言われていた時期がありました。医師が薬の大量処方を行うことで、利益を得ているのではないかというものです。

日本国民と同様に厚生労働省も医師は大量処方によって、利益を得ていると考えました。そのため、1990年代後半から医薬分業を強烈に推進していくという改革を行いました。現在は病院に行って、処方箋をもらい、薬局で薬をもらうという流れですが、昔は病院で薬をもらっていたのです。その院内処方が大量処方の原因と考えられていたのです。改革後、病院外に薬局が存在することで、医師側には処方箋の料金だけが儲けとして発生します。医師が大量処方する分、カルテに処方薬を記入する手間が増えますが、入るお金は同じというシステムです。結果的にこの改革はほとんど効果がなく、薬の大量処方は変わりませんでした。これにより、医師は金儲けのために、薬の大量処方をしているわけではないと分かったのです。

医療の専門分化主義とは!?

それでは、ここまで問題になっている大量処方がなぜ行われ続けているのでしょうか。その原因の一つに医学教育の在り方が問題として考えられています。それは、「医療の専門分化主義」です。大学病院や大病院は、内科という科が存在せず、その代わりに、呼吸器内科、内分泌科、消化器内科、循環器内科という臓器別の診療科が存在します。これは総合的に診察する科ではなく、それぞれの臓器を専門的に見る診療科ができているという事を意味します。このような専門分化は、臓器の病気が特定されている場合や例があまりない特殊な事例の場合には専門的な治療を施すことができるため、大変有意義なものとなります。しかし、専門分化によって、医師の専門は非常に狭いものとなり、専門外の分野の治療は、効果的といえないことも珍しいことではありません。

大病院や大学病院の医師が開業する多くの場合、病気の専門医として開業することができれば良いですが、それでは患者を十分に集めることができないため、経営困難になります。それを防ぐために、本来、糖尿病の専門医や消化器内科の専門医であるにも関わらず、一般内科として開業して、内科全般の専門医として患者を診ることを迫られています。

しかし、来院する患者、特に高齢者はいくつもの病気を患っていることが一般的に多く見られます。現に高血圧で、骨粗しょう症でもある高齢者はたくさんいます。その場合、循環器の専門医としての経験があれば、高血圧に関しては専門的で効果的な治療を行うことが可能です。しかし、骨粗しょう症に関しては全くの専門外で、医療の素人のような立場で治療を行うしかありません。このことに疑問を感じる方もいるかもしれませんが、医療というのは非常に細分化されており、多くの医師は一つの臓器に関しての専門家です。

よって、他の臓器に関しては一般的な知識しか持ち合わせていないことも多いです。それは医師が勉強不足という話ではなく、それほど今の医療が専門的で高度化されているという意味なのです。

専門外の患者を診る時のマニュアル本がある!?

専門外の分野に関して、医師が勉強できるように医師用の治療法の本はたくさん存在しています。それぞれの病気について、マニュアル対応が書かれている本です。マニュアルだけあって、専門外の医師であっても、どのように検査し、治療すれば良いか、最低限の治療ができるようになっています。専門分野ではないので、高度な治療はできませんが、最低限は押さえておくべき治療はできるというわけです。

しかし、問題はこのマニュアルにあります。多くの場合、標準治療は、2~3種類の薬を処方すれば良いという内容になっています。自分の専門外の病気を複数抱える患者に標準治療を行うとすると、計8~12種類の薬を処方することになります。

しかし、この場合の標準治療は、いくつかの病気をかけ持っていることは考えられていません。そして、診察のために来院した患者が既にいくつかの薬を飲んでいる場合、その処方とこれから処方する薬の関係など書かれていないし、医師は全くのお手上げ状態ということになります。専門医が開業すると、このようなことが起こりがちになり、また患者の多くは高齢者のため、大量処方に陥りやすいということが見えてきます。

医療の正常値至上主義とは!?

 

介護においての高齢者の薬問題

 

医師による大量処方の原因はもう一つあると考えられています。それは、正常値主義というものです。病気かどうかを診察する検診を行った時に、異常を示す値が出ようものなら、病気の早期発見ということで、治療が開始されるというものです。

2012年の人間ドック学会の発表では、人間ドックで全ての項目において異常が見られなかった人はたったの7.8%しかいなかったそうです。92.2%の人はどこかしらに異常があるという結果が出ました。そして、その異常の数値を医師が見ることで、異常値を正常値に近づけようとなり、治療が開始されてしまいます。

その異常値を専門医が見た時に、これくらいの値なら支障なしと判断できるかもしれません。しかし、専門外の医師の場合は、念のため治療しておくという判断を下さざるを得ません。必ずしも治療するわけではないですが、早期治療という言葉も浸透していますし、治療しておいて、損はないという考え方もありますから、治療に傾きやすいのです。

何が正常値なのかという問題もありますが、血圧を例にあげると、血圧正常値は時々、変更されることがあります。大規模調査により結果が変わるのですが、雑な決め方をされていることも多く、正常値というのは何を持って正常といえるのか難しくもあります。

今、必要とされているのはどういう医師?

近年、総合的な観点から患者を診ることができる総合診療医や、地域の患者へ往診する地域医療医が注目を集めています。総合診療医は、各臓器のエキスパートではないかもしれませんが、患者を診察し、その患者にとって治療すべき優先順位や本当に必要な薬を見極め、不要な薬を省くことが可能な医師であるといえます。

これは、長野県では総合診療や地域医療、啓蒙活動が盛んであるためにもたらされた結果です。長野県では医療に対しての取り組みが進んでいますが、一方でひとり当たりの老人医療費は全国最低レベルであるという現象が起こっています。

これはコストをかけずに、患者の健康長寿をなす治療を実現していることを表しています。その一方で大学病院の多い県ほど、平均寿命が短く、老人医療費も高いという傾向も見受けられます。検査値の正常主義は必ずしも効果的とは言えません。

薬の大量処方は、患者側が診察を受けたら、薬をほしがるからといった理由もあります。医師が薬は不要と判断しても、患者がクレームを出す場合があり、害にならない場合に限って、処方するというものです。今回は医師の問題から見た大量処方でしたが、要因は様々あり、また個々の患者に応じて状況も異なってきますから、患者、医師、双方に原因がありそうです。

介護ぷらす

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